オランダのシンタクロースに見る「子どもが社会の真ん中にいる」ということ
すっかりめっきり、もう完全に真冬に突入しているこちらオランダ。紅葉の時期をすっ飛ばして、一気に冬。もう朝なんか1℃とか普通です。少し前に日本に出張していたため、帰国直後はその気温差にビックリしましたが、この時期、オランダでは国をあげての超ビッグイベントがあります。
そうこれ、実は(日本から移住してきた)大人にとってはちょっと分かりにくく、かつ子どもも小さい子どもがいないと、あまり関係しないイベントかもしれません。さらにオランダ社会や、コミュニティに関わっていないと、これまた「なんのこっちゃ??」というイベントかもしれません。
毎年、このブログでも取り上げているのですが、オランダには「シンタクラース」なる聖人がスペインからやってきて、オランダに2週間に渡り滞在し、最後の日には子どもたちにプレゼント配って帰っていくという、サンタクロースの偽物では?と思う、大大イベントが行われるのです。
そして、このイベントを国をあげて行う、つまり国をあげて幼い子どもたちを本気で騙す(笑)、というところにこそ「子どもが社会の真ん中にいる国」ということを実感するのです。
今回はそのイベント内容と、それを行うオランダ社会についてご紹介します。
シンタクロースは国をあげての大イベント
季節が完全に冬に代わりクリスマスにはちと早い、11月中旬になると、やつがやってきます。そうです。シンタクラースです。サンタクロースではありません。シンタクロース。シンタです。
毎年11月中旬、シンタはスペインからオランダにやってきます。シンタがスペインを出発するタイミング、11月10日前後になると、毎年「シンタクラースジャーナル」なる、子ども向けTV番組が始まります。
これはいわば「今日のシンタ」の状況を、子どもたちに伝えるための番組で、シンタだけに特化した子ども向けニュース番組です。
ただ子ども向けシンタ専門ニュース番組と言っても、結構作りは凝っています。毎年シンタがオランダに向かう道中ではハプニングが起きるのですが、今年は、シンタが乗る白馬「オーゾースネル」(という名前の馬で、この名前も毎年違う)が、「水が嫌い」という設定で、毎年のようにスペインからボートに乗ってくるシンタが、なんと汽車でオランダに向かわないといけない、という設定になってました。
ということで、毎日のように、今日はどこどこを走っている。今日は、オーゾースネルがこうした、今日はシンタが汽車のなかで見当たらない、などなどと言ったハプニングニュースが報道されます。
子どもたちは、それを毎日見てハラハラドキドキしながらシンタの到着を心待ちにするのです。
諸説ありますが、シンタはサンタの元になったもので、この話がアメリカに渡りある企業のマーケティング戦略として、上手に宗教と結びつき「サンタクロース」なるものが生まれたという説もあるようです。
真偽のほどは分かりませんが、いずれにせよオランダでは子どもたちは断然シンタ派。シンタクラースは、まさに国をあげて子どもたちの夢を実現させる大イベントなのです。ちなみにシンタを祝うのは、オランダとベルギーだけだと言われています。逆にクリスマス(&サンタクロース)は非常に慎ましいもので、ツリーなどは飾りますが、それこそプロテスタント的な清貧な気分にさせられます。
シンタは2週間オランダに滞在
さてシンタがオランダに到着する日(毎年11月中旬の週末)には、またまたニュース特番が組まれ、国をあげて大歓迎のもとシンタが迎え入れられます。今年は、電車が予定よりちょっと遅れたためスピードあげたところ、白い馬のオーゾースネルを乗せた貨車が外れてしまい、線路上に置いてけぼりにされたため、シンタだけが到着するというハプニングがありました。(白馬は、なんとか歓迎イベント&番組放送中に自力で?到着)
ちなみに、これはリアルに電車(というか、汽車のようなレトロなモデル)を走らせて、それを生中継するという念の入れよう。つまり、このために鉄道のダイヤは通常とは変更され、特別列車を走らせ空撮し、さらにそれを中継するTV番組があり、歓迎の大イベントがあるのです。
そして、シンタの到着都市は国内で毎年変わりますが、その翌日には各都市で大歓迎パレードやイベントが行われるのです。もちろん、これは市や街をあげての大イベント。例年ですが、ボートに乗って各都市にやってくるシンタご一行を、市長がお出迎えし、歓迎のセレモニーが開催されます。今年は電車で到着するという設定なので、電車でしか到着できない街(運河とか、海とかに面していない街)になってました。
ちなみにシンタにはお付きのピートがいます。ピートは元来、黒人ですが、近年では人種差別や奴隷制度反対の見地から大反対運動が起こっています。(どうやら、この騒動の取材のため日本の局も取材を入れているようです)
オランダに到着後は、シンタは街中で子どもたちにお菓子を配ります。ペーパーノーテンという、小さな丸いクッキーのようなもので、チョコでコーティングされているようなものもあり、(個人的には結構好き)季節の風物詩的なもので、11月あたりに入ると各店で売られ始めます。さらに冬の定番お菓子としては、オリボーレンなる丸いドーナツみたいなものもあったりします。シンタの定番の歌が、ここかしこでかかり、子どもたちみんなが歌います。暗く、寒く、雨ばかりになってきたオランダの冬は、こうやってシンタ一色になるのです。
子どもたちは、シンタが滞在中の2週間に毎晩のように靴に人参を入れて眠ります。これは白馬のオーゾースネルの餌なのですが、子どもたちが寝ている間にピーターがそれを取りに来て、その代わりにお菓子を置いていってくれるからです。もちろんその人参を準備して、お菓子を置くのは親なんですけどね。
そして最後にシンタがスペインに帰る前の晩、(12月5日)各家庭に「ドンドンドンドン!」とドアをノックする大きな音が聞こえると、玄関の前には大きなズタ袋に入った、お菓子やプレゼントが置かれているのです。言うまでもなく、これも親が行いますが、この「ドアをノックして、プレゼントを玄関の前に置いておく」、というのは近所の人に頼んだりとなかなかに手が込んでおり、大人たちが徹底的に子どもたちを騙す=「シンタは実在している」と信じさせるのです。
そのほか、子どもたち(主にシンタは実在していないと気づいている、中高学年くらいから?)同士でのプレゼント交換会(これも凝りに凝っている)が学校で行われたり、これでもか!とシンタ一色の冬になります。(そして、当然、全ての行事は親がサポートすることになる)
当たり前ですがシンタを信じているのは、幼い子どもが中心で、だいたい7,8歳くらいからは、「これは親がやっている!」(笑)気づく子が多いようです。
うちも今年は10歳の長男がついに「シンタはいないって知ってるよ!」と言い出し、卒業することになりましたが、5歳の次男は絶賛盲信中でシンタのトリコになっています。一つ屋根の下のでシンタを信じている子と、シンタを卒業した子がいると何かとややこしいのですが、長男も今のところ騙す側として協力してくれています。
ということで、長々と「オランダのシンタクラース」イベントについて説明させてもらいましたが、結局ここで感じるのはオランダと言う国がいかに「子どもを中心とした社会」を設計しようとしているか?ということ。日本だと子どものイベントのために、国の電車のダイヤを変更して、そのイベントだけのニュース番組を毎日放送して、街中でお菓子を配りまくる、なんてことないですよね?(シンタや、大量にいるお付きのピートの人件費がどこから出ているのか? もしかしたらボランティアなのか?など不明ですが)
よく「オランダでの子育てってどうですか?」という質問を受けます。そのたびに「楽ですよ」「楽しいですよ」と答えているのですが、その理由はこうした「子どもが社会の真ん中にいる」という社会設計なのではないか?と思います。
もちろん、今回は毎年この時期だけの特別なイベントの様子をご紹介してますが、普段の生活や社会においても、この「子どものことを考える思想」というか、子どもが社会の中で真ん中に置かれているような思想は通底してあります。
よく海外子育てというと「英語」「多様性」などがメリットとして語られることが多いと思いますが、個人的に感じるのは、そうしたこと以上にこの「子どもが社会の真ん中にいられる」環境が大きいと思っています。こういう社会は、子育てが本当に楽なのです。もっとも実はこうしたことは日本でも昔は当たり前のようにあった環境だとは思いますが…。
さあ〜、親が大忙しのシンタクラース期間が始まりました。ということで仕事に支障をきたしてしまったら、ごめんなさいw。先に謝っておきます。
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