先週の水曜日(2021/3/17)、オランダでは総選挙がありました。4年に一度の第2院150議席を決める国政選挙です。結果は、ルッテ現首相率いる政党が、選挙以前のまま第1党として勝利。その他ざっくり総括すると、全体的な政策としては、コロナ禍ということもあり多少左よりになりつつも、いわゆる左系は議席を減らし、右系が少し議席を増やしたという感じでしょうか。現状のコロナ対策が評価されていることもあり、大勢はそこまで変わりなく。とはいえ、こういう有事の際には、将来の環境や気候にはあまり気が向かず、明日のご飯をどうしようか?ということに関心が行くので、まあ、それがそのまま投票結果にも出たのかな?と感じました。

しかし、その選挙結果よりも、気になったのはオランダの選挙そのもの。と言うより、子どもたちの巻き込み具合です。この子どもたちの巻き込み具合を見るにつけ、やっぱり「教育と社会は繋がっている」と言うことを意識せざるえませんでした。

と言うことで、コロナ禍にも関わらず82.6%の投票率だった選挙をを振り返りながら、オランダの教育の役割をご紹介します。

 

教育で国を作るとは?

さて、唐突ですが日本では教育の役割は何でしょうか? 良い大学に入るため? 偏差値を高くするため? あるいは良い会社に入るためかもしれません。

オランダでは、それは「より良い未来を作るため」だと感じます。少なくとも自分は、その部分に注目しています。日本だと「教育と社会がぷっつりと分断されている」と感じるのですが、それに対して「教育と社会が密接に繋がっている」のがオランダと言えるのではないか?と思っています。つまり「教育はより良い社会、未来を作るもの」と捉えられている気がします。ここが最大の違いだと思っています。

今回の選挙でも、そんなことを如実に感じることがたくさんありました。

一番わかりやすかった例を挙げてみます。それは選挙の数日前(前日?)に、いわゆる「子どもニュース」に、主だった党首が揃って出演し、それぞれの主張を子どもたちに向かって伝えたのです。そして子どもたちがそれに対して、真剣にリアクションをしました。この番組を通じて、改めて各党の主張を伝え、子どもたちもそれぞれ自分の考えをまとめる、というそんなことがありました。

もちろん子どもたちには選挙権はありません。しかし、このニュース番組とは別に、そもそも各学校では模擬投票をやったり、授業で選挙について取り上げたり、各党の主張をみんなで検討したりもしていました。とにかく、選挙は自分たちの未来を決める上での大事なものだという前提があります。

この過程を通して、当然子どもたちも選挙に興味を持ちます。各政党の主張を知らなければ、自分たちの意見もいえません。ちなみに、ここで言う「子ども」とは「小学校」のことを指しており、我が家の(日本でいうと)小1の次男も、いっぱしに自分の意見を持っており、学校では「GL(グリーン・レフト=いわゆる緑の党)に投票した!」と言ってました。もうジェネレーション・レフトさながらですw 子どもたちもしっかりと自分がどこに投票したのか? なぜその人に投票したのか?と言うことを、自分の意見として発信します。(ちなみに、次男がGLに投票した理由は、同じクラスのお姉ちゃん(異年齢クラス)が「GLが良い」と言ったからだそうですw)TVのニュースでも、多くの子どもたちが「自分はどこどこに投票した」「自分はどこどこがいいと思う」というのをキッパリと明言していました。

という感じで、とにかくオランダでは選挙が身近。「知らないおじさんが名前ばかり大声で連呼している」という、全く自分とは関係ないどっかの知らない世界の話ではないのです。また、「あんまり政治的な発言はしない」「どこに投票したかは絶対に言わない」っていう風潮も日本にはあると思うんですが、そういうことは皆無。オランダらしくかなりオープンです。

しかも、ついでに言うと各党首の主張も面白く、わかりやすい。特に子ども番組に出た時などは、子どもにとっても非常にわかりやすい主張を述べていました。なんか日本と比べると悪いのですが、候補者自体のレベルが違うというか…。一人の候補者は、持ち時間を過ぎても主張をアピールしたために、その後子どもにその点を注意される、と言ったこともありました。

まあ、この党首たち自身も子どもの頃から、こう言う教育を受けてきたからだと思うのですが、なんか根本的に選挙が日本とは違います。完全に選挙が国民みんなの自分ごとになっています。その結果が82.6%という投票率なのかな?と思いました。(もしかして、これでも北欧と比べると低いのかもしれませんが…。)

で、これらを通じて思うのは、政治を通じて国を作るって言うのは、こういう(教育の)土壌があるからできるんだろうなということ。つまり教育を通じて未来を作る、社会を作る、国を作るというのはこういうことだろうなと思うのです。

 

教育と社会は繋がっている

「子どもが世界一幸せ」と言われるオランダですが、オランダの教育は何がいいのか?と言われると、やっぱり社会と繋がっていること、だと思います。

International Survey: Children in the Netherlands 1st in Overall Well-being

その結果が、今であればスタートアップが盛んであったり、働き方が先進的であったり、イノベーションが多かったり…。もちろん、当然良いことばかりではありません。勉強だって、自分でしなければ大学などへも進学がしづらかったり、純粋な学力では日本の方が圧倒的に高いでしょう。だから日本的な進学とか学力とかを気にするのであれば、オランダの教育は決して良いものではありません。ただ、前述の通り教育が社会に直結している感じはします。

教育というのは社会のOS作りだと思うのですが、オンラダのOS作りの目的は「幸せな国を作ること」。つまりこれが教育の目的です。その結果?最近発表された国連の2020年のレポートでも、オランダは幸せな国ランキングで5位になっています。( The Netherlands Amongst Most Happy Countries in the World ) コロナでなかなかに酷い目にあっているにもかかわらず、前年からランキングを1つ上げての5位。ちなみにトップはおなじみフィンランド。日本は前年から10もランクアップして40位。トップ集団はお約束のスカンジナビアン&オセアニア。アジアだと台湾が19位でトップって感じです。(ちなみにWorld Happiness report はこちら

教育は社会と繋がっており、社会のOS作りだとするとマイケル・ムーア監督の映画で「教育」が有名になったフィンランドが、世界の幸せランキングで指定席のトップというのも、まあ当然かと。

そして、ご存知の通りフィンランドのマリーン首相は就任当時34歳女性。幸せランキング2位アイスランド首相は2017年からカトリーン・ヤコブスドッティル首相。現在45歳の女性、グリーンレフト党首。3位のデンマークは2019年から首相を務めるメッテ・フレデリクセン。同じく45歳の女性。そして4位のスイスは2020年度はシモネッタ・ソマルーガ。これまた女性。なんと5位のオランダよりランキング上位の国は全員女性がトップを務める国が並んでいます。これは偶然でしょうか??

フィンランドの女性首相は当時34歳で世界最年少。連立与党5党のうち3党が女性党首。閣僚は全19人中、12人が女性

そういえば自分は社会人になった時に、バブル期の最後の最後の残り香を、かろうじて味わったかな? という感じの世代です。社会人になりたての時に、すこーしだけ世界の中で非常に高いポジションにいた日本の余韻を味わうことができました。

今、思うとそれはある意味、貴重な体験でした。つまり当時の日本と今の日本では世界の中でのポジションが全く違ってしまっています。「当時はバブルだったから、国づくりのOSである教育とは関係ないのでは?」と思うかもしれませんが、バブル自体が追いつけ追い越せで、偏差値教育に偏重して行った教育の結果だと思うとどうでしょう?合点がいきませんか?そして、今も日本では当時と同じ教育が行われているのです。

つまり、これが教育とは社会に直結するべきだと思う理由でもあります。少なくとも自分が40年くらい前に経験した日本の教育を続けていては絶対に世界では通用しないと感じるのです。

もちろん誤解ないようにお願いしたいのは、日本人がダメだと言っているわけではありません。実は世界に通用するどころか、リードする日本人はかなりいます。(なので、なおさらそういう人を活かすためにも、社会に直結する教育が大事なのです)また、教育を変えるチャレンジが日本ではいろいろと起こっているのも知っています。むしろ、自分も微力ながら、そういうことに取り組んでいたり、協力させてもらっていたりしますので。

 

「政治やお金の話は人前ではしない」と言った風潮が日本ではあったりしますが、それらも社会の一要素です。しかも大事な。こういうことを教育の題材として取り上げることも大切です。

そもそも、子どもたちに大人気な「ニュース」という番組が存在し、しかもそれが毎日ゴールデンタイムに放映されている、というところが違うなあとも思っているのですが…。とにかく選挙を通じて、改めて教育と社会は繋がっているなあと思った次第です。

あ、ちなみに自分はオランダの選挙権ありません。