世界的に少しづつ解除方向に向かっているコロナ・パンデミック。日本でも一部の地域では自粛解除になったり、ヨーロッパでもそろりそろりと自粛へ向けて歩を進めています。

ただ、アジアでは韓国で、ヨーロッパではドイツ、英国などでは第2波というか、再び感染者数が増加に転じたという話もあり、まだまだ予断を許さない状況は続いています。

こんな、いつ終わるのか誰も予想のできないコロナ・パンデミック。たまたま4月スタートだった学校が始まらない、授業が大幅に遅れている、オンライン授業が行われない、やっているところとやっていないところでバラ付きがある、などなどの理由から、にわかに9月入学へ移行したら良いのでは?という話が上がってきています。

でも、個人的には全く無意味な議論がなされているなあと思ってみています。

ご存知のようにヨーロッパも9月入学制度です。そこで、今回はこちらの生活レベルで実感している9月入学について、それから、そこから感じる、日本の議論の的を得てないと感じることについて書いてみます。

 

9月入学は誰のため?

今、日本でにわかに言われだした9月入学。そもそもは「日本死ね」と言われようと、「日本の大学の世界ランキング」がみるみる低下しようとも、「子どもの教育」を一顧だにしなかった我が国の首相が、全国知事会の要請を受けて「9月入学を選択肢の一つとして検討します」ということを言い出したのが事の発端。

主に、9月入学に移行することで、今の自粛中の勉学の遅れを挽回しやすくなるのでは?とか、国際標準に合わせられるから留学とかしやすくなる、といった点がメリットとして挙げられています。今年に限っては、中止になってしまった行事(インハイとか、甲子園?とか)が復活できるとか、受験までの貴重な学業の時間を削減されたくない、学校再開後の詰め込みが不安などなど、一応、子どものために9月入学へ移行しよう、という話になってます。当たり前ですが。受験を控えた高校生自らが9月入学を求めて署名活動を始めたりもしているようです。

一方、反対派は今からはオペレーション的には無理ゲーだ、金がかかる、議論がなされないまま拙速に進めることはありえない、年齢はどうする? 半年卒業が遅れるのはいかがなものか? はては幼稚園からの切れ目ない教育はどうするのか? 義務教育の開始年齢が遅れるぞ! 4月に企業に新卒が入ってこないと大変だ、などなどの話が出ているようです。(twitterなどにもいっぱいでていますね)

参考

9月入学 メリットは? デメリットは? 専門家に聞く 

9月入学・新学期は進めるべきではない―子どもたちと社会への影響を重く見るべき4つの理由

日本教育学会声明 2020年5月11日

さらに、ある人がシェアしていたFBで読んだのは、「9月入学っていうのは半年早める」というならまだ納得できるが、今話しているのは「半年遅らせるという理論」「これではますます欧米と差がつくし、みなさんの子どもが半年、場合によっては1年近く遅れるんですよ」「学業をそんなに遅らせていいんでしょうか?」「海外とはますます差がつきます」「だから断固反対です」というもの。FB上の、この投稿にはかなりの賛同が集まっていました。

 

世界では1年の遅れは誰も気にしない

さて、個人的にはこの全ての議論には「本質的な議論」が抜け落ちていると思っています。上にあるような議論は、すべて現状の受験戦争を肯定的に受け入れ、さらには現状の就職ランキングでできるだけ上位に入る企業に就職することを前提とした偏差値主義、つまり現状の教育ありきでの議論です。

そもそも、今の日本の偏差値で全てが決まるような教育を肯定して、それに則って9月にしろ、4月のままで良いと言っているのが、全くのナンセンスというか意味不明です。

仮に小さい頃から半年、教育を早めて、仮に良いとされる大学に入学して、さて、その後どうするんでしょうか? 良い企業って、今の日本にありますか?(すいません。ありますよね。ちょっとデフォルメして言ってます)そうした良い企業に入ればOKなんでしょうか? 日本の良い企業、今、世界で活躍してますか? 企業には入らないで、官僚になる? さすが半年、教育を早めただけはありますね。優秀であれば、それも良いでしょう。でも、官僚になって、公費を使ってコネクティングルームで不倫をするんでしょうか? それともアベノマスクチームに入って「愚民は文句を好きなだけ言え。広報が悪すぎた」と偉そうにFBに投稿するんでしょうか? それとも公文書を偽装して、死者まで出してもノウノウと出世していくんでしょうか? 定年を延長してもらうっていうのもあるかもしれませんが。

つまり、半年急いで、(あるいは遅らせてでも良いですが)みなさんは、どういう大人になりたいんでしょうか? どういう大人になって欲しいと思っているんでしょうか? 子どもは何を勉強したいんですか? 何に取り組みたいんですか? 勉強したいことがあれば、ギャップイヤーを有意義に経験しながらずっと勉強していったり、自分が勉学についていけないと思ったら、学年をひとつ落としたり(オランダでは小学校から落とします。うちの次男も落としてます)も普通です。

「学業が遅れる」っていうのは、何と、あるいは誰と比べて「遅れる」んでしょうか? 「世界から遅れる」といいますが、その世界はバラバラですよ。バラバラに好きなことをやってます。誰も周りとは比べてないですよ。世界では勉強とは、自分の好きなことを、好きなペースで行うものです。勉強がいやなら、止めればいいだけです。

せっかく子どもにとっては、学校のない時間。これは遊びや、好きなことに没頭する時間に使えばいいのです。子どもは遊びの天才なのですから。勉強こそが、その天才度合いを、どんどん削り取っているのですから。もしやりたいこと、遊びたいことがなければ毎日暇にしていればいいんじゃないでしょうか? 暇は、子どもの成長には必要なのです。(夏休みは退屈の方が良い?子どもにとって「暇」から得るメリットは大きい?

在宅勤務になった親も子どもの世話で仕事ができない、と言っている人が多いようですが、(在宅勤務65%が「育児で仕事中断」 両方はムリと悲鳴)そんなのは放っておいてもいいんではないでしょうか。子どもは元来、自分で成長する力をもっているのですから。近年は、親が変に過保護になりすぎているだけです。実際、みなさんも小さい頃は放っておかれたんじゃないでしょうか? それでも今、立派な大人になっているでしょう?自分の子どもをもっと信じれば良いのではないでしょうか?

 

ということで、9月入学議論は、全く本質を得てない議論がなされているなあと思っています。

最後に、実際にヨーロッパで経験している身からすると、9月入学は、文化というか生活リズムに溶け込んでいます。4月入学が日本の文化や生活に溶け込んでいるように。桜の下の入学式や、春の落ち着かない気候の元、新学期という落ち着かない季節を迎えて、やがて学校の環境にも慣れ始めると夏休みになって。暑い夏を終えて、日焼けして秋の学期がはじまり…みたいな文化に密接にリンクしてます。

ヨーロッパは、夏が最大のバケーションで、そこでゆっくり充電して新しい年がスタート。例えばスポーツのシーズンも、このリズムに合わせています。みんな、夏の休みに向けて働いています。

こうしたリズムが、その土地の文化をつくっていたりもします。なので、学校だけ9月に変えるっていうのはどうかな?と思います。変えるなら、社会制度ごと変えた方がいいのかな?とも思います。

日本独自の4月入学文化は、世界とは違うけど、それそれで良いのではないか?と思います。もっとも日本でもまだそれが定着してから100年くらいしか経ってないようですが…。

親にとっては、子どもの学業の遅れは気になるところかもしれませんが、たかだか、半年、いや1年の遅れは、人生100年時代、みじんも影響を与えないでしょう。海外では、みんなギャップイヤーを取りまくっていますよ。自分も浪人、留年で2年遅れていますが、人生には全く関係ありません。

この期間、遊びの天才の子どもを、思い切り遊ばせても良いのではないでしょうか。